「Paradise Kiss」はオタクと一般人の架け橋になれるか

この作品は素晴らしいものになる、かもしれない。
なんせ攻撃的だ。前衛的だと言ってもいい。「アニメってこんなもの」という既成の枠組みに正面から食ってかかっている。
 
アニメというのはどうしても同じ人が作り、同じ人が見るから、同じような物が出来やすい。声優だけタレントを連れてきても、他の部分が違えばそこだけ浮いてしまう。そんなことよりもっと根本から掘り起こして、新しいアニメを作るんだ、という意気込みをまずは評価したい。服飾デザインという題材ともこれは相性が良い。
 
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最近の我々を取り巻く状況として、オタク文化が、まずその経済的影響からマスコミや世論に認められはじめている、ということが挙げられる。オタクにとってこれは追い風である。がしかし、それは飽くまで数字の上での話で、我々は何一つ理解されていないのではないか、という疑念も我々の頭の中には常にある。もっとアニメを見て欲しい、アニメに興味を持って欲しい…というような思考は何も、アニオタ特有の物ではないはずである。
 
しかし「アニメ特有の臭み」というのがある。その正体が何なのか、内側からははっきりとはしないが、それ自体が一般人と呼ばれるある種の人たちを遠ざけているのは確かである。バカな新聞記者などが公私混同をもって「かみちゅ」や「ROD」を見てくれ〜等と公共の誌面でアピールするが、こんなものは逆効果以外の何物でもない。同族嫌悪の対象ともなろう。
 
結局、コンテンツ次第だというのは電車男のヒットを見ても明らかだ。伊藤淳史が演じたテレビドラマ版電車男は、同じオタクから見ても救いようのないアキバちゃんであったが、どこまでもわかりやすい恋愛の構図と、キャッチーなAちゃんねる住人が受けて平均視聴率20%超という数字を残した。結果的に、オタクという存在が身近に感じられた人も少なくないだろう。とは言ってもオタクが皆アキバ系だと思われるとまた困ってしまうのだが。
 
アニメ「Paradise Kiss」が一回目でどれだけの数字を残せたかは知らないが、そもそも視聴率だけで言えばコナンやサザエさんが既にある。「Paradise Kiss」の目指すべきは「アニメにちょっと興味を持った一般人の受け皿」であろう。それは宮崎アニメでもない、サザエさんでもない、我々オタクが見るいわゆる「アニメ」。それでいて、「アニメ特有の臭み」をなるべく抑え、オタクも一般人も視聴に堪えるハイブリッドなアニメ。そんなアニメが今、我々と一般人と呼ばれるある種の人たちとの間においては、何よりも必要不可欠なのだ。
 
Paradise Kiss」#1に見られるのは、膨大な実写の取り込みからなる、現実と地続きの日常である。そこでは平面のキャラクターと合成しても破綻してしまわないように、巧妙な加工がなされている。アニメをファンタジーの世界の物語だと思い込んでいる人は、これを見て面食らうはずだ。そして服飾デザイナーとモデルという、決して目新しくはないけどアニメの特性がきっちり活かせるテーマ。第三に、我々が見惚れてしまうほどの美麗なキャラクターの作画、である。テレビアニメの絵がヘタなのは、アニオタなら誰もがある程度の理解を示し、受け入れている節があるが、そんな文脈が、宮崎アニメを見慣れた一般人に通用するはずがない(から綺麗に超したことはない)。そう言えば、かつてエヴァがヒットした頃に「作画が良かったのも要因の一つ」と夕方のニュースで言われてたのを思い出した。その次くらいにまぁ、山田優が来るのかな。朝食りんごヨーグルト。
 
一般受けする要素はしっかりと入っている。一方でアニオタがこれをどう見るかということも重要だ。自分はかなり楽しんで見たのだけど、とかく「アニメ特有の臭み」に何かしらのシンパシーを示して、そこに拘ってしまう人には少し食い足りないかもしれない。が、「アニメ」に対して貪欲なアニオタは、これを必ず受け入れてくれるものと信じる。
 
当面の問題はこれがテレビアニメで、どうしても多少のクオリティの上下は覚悟しなくてはならないから、それはもうちょっと見てみないと本当の評価はできないということ。1話を見た限りでアンテナの感度を最大まで高めて書いたのがこの記事、ということでひとつお願いします。
 
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ここからは、声優オタクとしての視点でちょっとだけ。
 
ノイタミナ」シリーズの前作「ハチクロ」もコンセプトとしては「ParadiseKiss」と似たようなものであったが、そのコンセプトは見えたものの、バリバリのアニメ声優をほぼフルに起用したことにより、作風としてもだいぶこちら側に引っ張られたかな、という話は以前にした。
 
今回はその点をよく踏まえている。まず声優の文法とはおよそかけ離れている山田優をヒロインに起用しているが、我々が当然見るべきは作品との相性である(と言ってもモノローグとダイアログが全く同じ調子であったり、この人に問題がないわけではない)。そしてもう一人、アラシ役の水谷俊介氏。彼の本業はバンドマンのようだが、声に張りがあり、声優には表現できない「個」を早くも発現させており、只者ではない。彼のような人材と巡り合えるのが他業種参入の旨味なのは間違いないので、とくと味わって欲しい。
 
話が逸れたが、彼ら─全然畑の違う者─とのパイプ役が、ミワコ役の松本まりかである。彼女はファフナーからこっち(FF10からか?)声優業に片足を突っ込んでいるが、いまだにアイドル臭さ、「媚び」が抜けないでいる、がそれも個性かも知れない。ほっとけ。
 
上記の三人だけだったらおそらく、ただの「アニメ声優否定」になってしまうんだけども、ジョージ役の浜田賢二氏、如月役の三木眞一郎氏と来てようやく自分が普段住む世界と繋がったな、とほっとする。アラシはともかくとして、こういう美形男性キャラはやはりアニメ声優が得意とするところなのかもしれない。
 
全体としてみれば、三者三様、広がったレンジを持つキャストと言えるだろう。これも一般人とアニオタの架け橋となるべきアニメには相応しいと、自分は考える。