声優の「人気」を考える


人気があるというのは人気がないよりは良いことです。うがった見方をしなければ、とりあえずのところ。
また「人気がある」という事実は結果であって、結果と原因はワンセットですから、最初に何か原因があって、それがある過程を経て、「人気を獲得した」と考えるのはごく当たり前のことです。結果に対する原因と過程を探るのは、声優という職業をより深く理解するのに役立つことでしょう。
というわけで、今日は声優にとって「人気」とは何なのか、それをどうやって見るのか、ということを少しだけ考えてみたいと思います。
 
気軽に「あの声優は人気がある」「人気声優だ」などと言ってしまいますが、その明確な基準はありません。ただ、一般則として、「人気のある声優は、仕事も多い」という風に取られることが多いようです。
 
人気声優ならば、仕事が多い。 ─(A)
 
(A)は冷静に見てみると結構無理があるのですが、事実そういうような解釈が一般的です。もちろん、声優の報酬体系というのは年功序列色が強く、キャリアを重ねていくに連れ仕事の単価が上がり、仕事の量は減るのが普通ですから、(A)は一人の声優のキャリアを均してみた上で、人より仕事が多いか少ないか、という意味合いを含みます。
 
さて、「仕事の多さ」というファクターには、我々ファンの意思は直接的には関与することができません。「人気」と言ったら、普通はファンが主体となって形成する人気のことを指すのに、その「人気」のバロメーターが、ファンの直接関与するところのない「仕事の多さ」であるというのは一見するとおかしな話です。この矛盾を解消し、「仕事の多さ」と「ファンの人気」を結びつけるためには、もうワンクッション仮定をおくことが必要になります。
 
仮定─ファンのあいだに潜在的にある人気を、声優を使う側のスタッフは汲み取ってくれるはずだ。スタッフが汲み取ったであろうファンの意思、およびスタッフそのものの意思をまとめて「スタッフの人気」と呼ぶことにしよう。つまり「スタッフの人気=ファンの人気+スタッフの意思」である。─(B)
 
我々は無意識的にスタッフに期待しています。例えばアニメの改編期には、自分の好きな声優を新番組で使ってほしい、という風に。それに応えてくれたならばスタッフグッジョブ、てなもんで、自分たちの意思がスタッフに伝わったと感じるわけです。これは完全に心理的効果であって、ファンの考えること(つまり自分の意見が反映されたと思うこと)にはな〜〜んにも裏づけがありません。ありませんが、やはり当たり前のようにファンの間に存在している心理であるのは事実です。裏づけはないですが、スタッフの方にも多かれ少なかれ、「ファンの人気を当て込んでキャスティング」というところがあるのもまた事実ではあります。
 
ここまでをおさらいすると
「僕は○○さんが好きだ。もっとアニメで見たいなぁ。スタッフ使ってくれよ。」(ファンの人気)
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新番組のキャストに決定。(スタッフの人気。ファンの人気が具現化)
 ↓ ↓ ↓
「おお!!やった!!これはきっと○○さんが声優ファンの間で注目されているからに違いない。
 あと、オーディションで頑張ったからだ。きっと。」(「ファンの人気」のフィードバック)
 ↓ ↓ ↓
 以下順繰り
 
というようになりますか。上手くファンの心理をシミュレートできてると良いのですが。目には見えない「ファンの人気」をスタッフが吸い上げ、「スタッフの人気」としてキャストにして具現化させ、それがまた「ファンの人気」へフィードバックされるという仕組みです。ただ、何度も言いますが「スタッフの人気」と「ファンの人気」がマッチしているという保証はないわけですね。どこにも。まぁ、結構マッチしているだろう、というのがある種の信仰としてまかり通っているわけですが。一方で、それを逆手に取ってスタッフ側が「はいはい、この人が見たいんでしょ」と言って自分とこでひいきにしている声優を捻じ込む、ということも十分にありえる。こういうネタは多分rikuzen_gunさんとかの方が得意だと思いますけど…。